2009年10月30日

Kulkofsky博士の論文について

昨日、Sarah Kulkofsky博士の「Stranger Danger: 子どもに対する誘拐対策教育の効果アセスメント」という論文を紹介しました。アメリカで2003年に発表されたこの論文に書かれたような事情は、現在もそれほど変化していないようです。

この論文の骨子は、
  • 典型的な「知らない人」による連れ去りの発生リスクは落雷事故程度の低さである。
  • 伝統的な防犯教育は効果が立証されていない。
  • BST法による防犯教育は、単独で行われた場合には効果が立証されているが、教室で行われた場合にはその効果は低く、一定割合の落ちこぼれを生じる。
  • BST法の効果が立証されているのは、ごく短期的なものに限られている。
  • BST法は時間、費用、労力の投資が大きい。
  • 現実の低リスクに対して効果のない伝統的な防犯教育を施す意味が全くないだけでなく、効果があるかもしれないBST法でも対費用効果から考えれば無意味である。同じ資源を他の安全教育に回すべきだ。

  • ということになります。

    この論文にも書かれていることですが、博士が私へのメールで特に注意を喚起したのは、防犯教育と現実の被害のミスマッチです。すなわち、
    合衆国では、「知らない人」による連れ去りの被害者のほとんどはティーンエージャーか思春期直前の子どもであり、児童・幼児ではありません(同様の統計は日本でもあるのではないでしょうか)。
    と、メールで述べられていることです。アメリカではstranger-danger教育は5歳前後に行われることが多いらしいので、ここに完全なミスマッチがあるのです。

    私は博士に、私の考えとして、「いかのおすし」の弊害として
    1. 子どもの正常な心理的発達を阻害すること
    2. 社会的弱者に対する偏見を子どもに植え付けること
    3. 犯罪が増加しているという誤った認識に基づいていること
    4. 誘拐に対して役に立たないばかりか時に危険であること
    5. 時間と費用の無駄であること
    6. 検討もせずに受け入れる教師は子どもにとって模範にならないこと
    を挙げたのですが、博士はこれらに対して、3、4、5は、この論文が根拠となるだろうとおっしゃいました。ただし、その他に関しては意見を留保され、1については専門家としてそういう事実はないのではないかと疑問を呈されました。

    1に関する博士と私の見解の相違は、おそらく「子どもの発達」でどの時期を重視するかの相違でしょう。子どもの発達に特に重要なのは乳幼児期であり、博士はその時期にはまだ防犯教育は施されていないことを指摘しています。それは確かにその通りです。しかし、私は子どもは常に成長を続けるものであって、「いかのおすし」教育を受ける時期にも悪影響は好ましくないと思います。ただ、私の見解を支持する証拠は、まだ見つかっていません。

    2、6に関しては、日本の固有の事情があるかもしれません。これは私の主要な論点でもありますので、この先も検討していきたいと思います。

    4の「時に危険」ということに関しては、「人を疑う人ほど騙されやすい」という研究結果が「いかのおすし」批判においてはあてはまらないだろうということを以前に確認しました。しかし、別の意味での危険性が欧米では指摘されています。そのあたりを、次回にでも紹介したいと思います。
    posted by 松本 at 15:08| Comment(0) | TrackBack(0) | 考察 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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