2009年10月27日

フェミニズムと「いかのおすし」

英語圏で「いかのおすし」に相当するのは「stranger-danger」という言い回しらしいということを以前に書きましたが、日本で「いかのおすし」に関する研究があるということを聞かないのに対し(どなたか存在をご存じであればぜひ教えてください)、英語論文では「stranger-danger」に触れたものは少なくないようです。参考になるかと、検索して出てきたものを少し読み始めてみました。Making trouble: cultural constructions of crime, deviance, and control(著者: Jeff Ferrell,Neil Websdale)の中の第5章の一部がGoogle Booksで立ち読みできたので、少しその内容を報告します。「プレデター──ワシントン州における"stranger-Danger"の社会構造:父権イデオロギーの一形態として」という論文です。

まず、背景として、英語圏ではもともと「いかのおすし」同様に子ども向けだった「stranger-danger」が、最近ではより広く、性犯罪一般に拡張されているということを念頭に止めておく必要があります。以前に紹介した論文でも、アメリカにおける子どもの「連れ去り犯罪」の大多数が性犯罪であるという報告がありました。「stranger-danger」は、性犯罪者から「おんなこども」を守るスローガンに発展しているわけです。

そして、表題の「プレデター」ですが、映画の題名にもなったこの言葉は、もともと生態学で「捕食者」という意味です。中学校や高校で習う「食物連鎖」の「肉食動物」が「プレデター」です。そこから発展して、現在では「性犯罪者」を指す単語として特異的に用いられることがあるようです。この論文では、ワシントン州をはじめ全米各地で定められた「プレデター法」を問題のひとつとしています。これは、性犯罪者を他の犯罪者とは別格扱いで監視する法律で、憲法違反ではないかという疑義も提出されているそうです。

さて、Google Booksの立ち読みですのでごく一部しか読めていないのでこの論文の本来の趣旨までは把握できていないのですが、前置きのところに興味深い指摘がありました。

まず、性犯罪の大部分が、「stranger-danger」が注意を喚起する「知らない人」によるものでなく、家族内で起こっている事実を指摘します。であるのに、上記のプレデター法やマスコミ報道のほとんどが「知らない人」を対象としており、家庭内の性暴力に関しては知らん顔を決め込んでいます。

ここで、性暴力が父権制度と強く結びついたものであることから、このような社会的に行われている欺瞞は、既存の父権主義を維持強化するためのものではないかという推論が行われます。すなわち、性暴力は家庭外からやってくるものであって、家庭内においては家庭外からの暴力に対する防備としての父権が必要であるとされ、さらに、家庭内における暴力装置としての父権が隠蔽されるというわけです。

「知らない人に気をつけましょう」というのは、結局は「家族は安全だから安全性と引き換えに服従しましょう」という押し付けであるわけです。事実はむしろ、家庭内での暴力がもっとも頻度が高く被害も大きいという現実があるのに、それを糊塗するのには何らかの意図があると推定されるわけです。

そして、社会構造がこういったイデオロギーにもとづいて構成されているため、法制度は「知らない人」による性犯罪に特異的に対応した厳罰主義となり、マスコミは「知らない人」による犯罪が起こるたびにそれを大きく取り上げることになります。一方で、日常的に起こっている家庭内の暴力に関しては、プライバシーを口実に、よほど極端な事例でもない限り無視をするというわけです。

かなり端折って紹介しましたので、相当に不正確なところもあると思いますし、また、前振り部分しか読めませんでしたので、この後に違った展開があるのかもしれません。正確なところは原文にあたっていただきたいと思います。ただ、興味深いのはこのようなフェミニズムの視点から見ると、「stranger-danger」が、まったく違ったものに見えてくることです。たしかに、これほど現実と乖離した「stranger-danger」や「いかのおすし」にこれほどのエネルギーが投下されている状況の裏には、何らかの力が働いているのかもしれません。それを、社会構造という観点から見るのは、あるいは正しいのかもしれません。

さて、「いかのおすし」をフェミニズムから見たら、どういう事実が明らかになるのでしょう。その道の方には、ぜひ分析をしていただきたいものです。

posted by 松本 at 14:11| Comment(0) | TrackBack(0) | 参考資料 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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