2009年10月22日

事案とは?

「不審者」は「犯罪者」ではありません。ですから、「不審者情報」は「犯罪者情報」ではありません。実際、警察から発表される不審者情報は、「防犯情報」などのように呼ばれます。「不審者がひょっとしたら犯罪と何か関係があるかもしれないから注意しましょう」という趣旨で犯罪の予防を呼びかけるのが不審者情報であるわけです。

ですから、「不審者情報」の数が多いことと、地域の安全が脅かされていることは、全く関係がありません。地域の安全が脅かされていることは、実際の犯罪発生数の多寡からしか判断できません。いくら「不審者」の数が増えても、実際に犯罪が増えていないのなら、地域の安全は確保されているのです。そして、もしも「不審者」の増加と犯罪の発生数の間に相関がないのであれば、「不審者情報」など信用するに値しないものだということになりかねません。

事実、「不審者」の増加に関わらず、犯罪は増えていないことが統計から明らかなようです。つまり、「不審者情報」の増加は、単純に人々の不安感の増大を反映したものに過ぎないようです。

もちろん、そうやって人々が用心するようになったおかげで、不安な世相にもかかわらず犯罪の増加が抑止されているのだと論じることも可能でしょう。いずれの立場が正しいのかは、例によって検証のしようがありません。ただし、繰り返しますが、「不審者」の増加は「犯罪」の増加とは全く別物です。これは、警察自身が認めていることです。

「いかのおすし」を調べていて、「事案」という言葉を知りました。奇妙な日本語だと思いますが、「声かけ事案」という成語として、大辞林にも掲載されているそうです。
声かけ事案 【こえかけじあん】
「家まで送るから車に乗らないか」と誘うなど,面識のない大人が子どもに対して呼びかけや誘いかけを行う出来事。犯罪に発展する可能性があるため,子どもが恐怖心を抱いた事案について,全国各地の警察が情報(発生日時・場所・状況など)を収集・公開している。
提供元:「大辞林 第二版」(goo辞書による)

一方、「事案」に関しては、同じ辞書に、
じあん 0 【事案】
問題になっている事柄。

と掲載されています。これではよくわからないので英語の辞書を引いてみると、caseもしくはconcernの訳語が出てきます。caseは事件、concernは懸案事項です。一般には「懸案事項」の意味で使われる場合が多いようですが、「声かけ事案」のような防犯情報で頻出する「事案」は、意味としては「事件」と全く同じもののようです。

しかし、同じ意味をもつのに別の言葉が使われているということは、どういうことなのでしょうか。これは「事件」の意味を調べれば推測できます。同じくgoo辞書によれば、
じけん 【事件】
(1)争い・犯罪・騒ぎ・事故など、人々の関心をひく出来事。 「―が起こる」 (2)「訴訟事件」の略。

となっています。すなわち、司法の用語では、「事件」は「訴訟事件」に発展するような犯罪性のあるものに使うもののようです。

「不審者」は、犯罪者ではありません。ですから、「不審者が出没していた」というのは、「事件」ではありえないのです。けれど、「警察などの公的機関が捜査すべき事態」(別の辞書による「事件」の説明)ではあります。そこで、意味としてはほぼ同じであるけれど「犯罪」という含意のない「事案」が使われるのではないでしょうか。

発信元の警察では、このように「事件」と「事案」をきちんと区別しているのです。こういった区別の意味を十分に理解すれば、「不審者情報」に眉をひそめる必要がないことがわかります。そういった正確な理解を「いかのおすし」のような声高なスローガンは妨げていないでしょうか。

posted by 松本 at 14:59| Comment(0) | TrackBack(0) | 考察 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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