2009年10月17日

便利な言葉、「不審者」

「いかのおすし」を考えていると、必ず出会う言葉が「不審者」です。そして、この言葉は、非常に便利に使われていると思います。「便利に」という言い方が不正確なら、「恣意的に」と言い換えてもいいでしょう。

マスコミでは、犯罪報道の際に、呼称がころころ変わります。最初は「○○さん」だったのが「○○容疑者」に変わり、「○○被告」から、最後には呼び捨てになります。これはときに滑稽に映るのですが、根拠のないことではありません。裁判で有罪と確定しない人を犯罪者扱いすることができないからです。警察が嫌疑をかけ、検察官が捜査を許可した段階で、「容疑者」にはなりますが、「容疑者」は「犯罪者」ではありません。裁判所に訴えられた時点で「容疑者」は「被告」となりますが、これも法廷における地位を表現したに過ぎず、やはり「犯罪者」ではないわけです。

法治国家では、「あいつは怪しい」というだけで相手を犯罪者とすることはできないのです。いくら怪しくても、現に違法行為をはたらいていない人、違法行為をはたらいているという証拠がある人以外は、「犯罪者」はおろか、「容疑者」にもなれないのです。法にもとづかずに人を「犯罪者」や「容疑者」と呼ぶことは、それ自身が違法行為です。

この「容疑者」にもできない「怪しい者」を一括りにしたのが「不審者」です。ですから、「不審者」は「犯罪者」ではありません。何の法的根拠も必要なく、ただ、任意の誰かが「怪しい」と思っただけで「不審者」は発生します。

ところがこれが、「不審者情報」となり、その統計となって数値化されると、あたかも「不審者」の増加が「犯罪」の増加を示しているような錯覚を起こさせます。

私が、現在の「不審者」の使われ方が一種の私刑であると感じるのは、こういった法にもとづかない情報が一人歩きするからです。人は、危険を感じたときに他者の行動を「怪しい」と思います。「不審者が増加している」という情報は、それだけでわずかでも変わった行動を「怪しい」と思わせる動機になります。この「怪しい」感覚が更なる「不審者」を生み、「不審者情報」は自己増殖していきます。

もちろん、「怪しいな」と思ったときにそれなりの注意を払うのは大切なことでしょう。車のナンバープレートをちょっと控えておくとか車種を覚えておくというのは、万一の事態が発生したときに重要な手がかりになります。「不審者」を警察に届けるのも正当な自衛でしょう。実際、私もかつてコソ泥に侵入されたことがありますが、後に判明した犯人は典型的な「不審者」風の男でした。見かけない人が何をしているのだろうと関心をもち、ときにそれを他の人々と共有することは、犯罪の防止になることが少なくないでしょう。

しかし、「不審者」は、正体がわからないからこそ「不審者」であるわけです。見かけない人でも実は何らかの業務で周辺をうろついていることもあるでしょう。周縁化されて行き場のない人々であるのかもしれません。そういった正体がわかれば、「不審者」は「不審者」ではなくなります。「何をしでかすかわからない」から「怪しい」のであって、素性が知れればそれでいいのです。

ですから、「不審者」をなくして安全な社会をつくっていくには、「不審者情報」に敏感になって「不審者」の発見に努めることではなく、「不審者」の素性を明らかにしていく作業が必要なのです。「不審者」を見つけ出して統計化することは、どんどん不安感を増加させるだけです。そうではなく、地域で「不審者」の存在を感じたら、警察を利用するか、あるいは自分自身で、その「不審者」がいったいなにをしているのかを明らかにすればいいでしょう。そうすれば、「不審者」は消えてなくなります。

私自身、警察に職務質問されるのは嫌なものです。けれど、いわれもなく「不審者」として統計化され、「犯罪の増加」の根拠にされるのはもっと嫌なことです。だれでもそうではないでしょうか。

「不審者」は、無根拠にレッテルを貼って統計化するのではなく、その場その場で解消していくことが重要なのではないでしょうか。現状は疑いが疑いを呼ぶ無法地帯です。これではいけないと、「いかのおすし」ついでに感じた次第です。
posted by 松本 at 19:35| Comment(0) | TrackBack(0) | 考察 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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